アルゼンチンでのボランテイア活動体験            中西陽典

1.はじめに

マクリ大統領が提唱する、「アルゼンチン経済の立て直し」の方針をうけ、アルゼンチン政府からJICAに要請された、 アルゼンチン中小企業の競争力強化、生産性向上を支援する為、2016年3月から2年間ブエノスアイレスに派遣されました。

アルゼンチンの自然、文化、生活については、何人かの先輩ボランテイアが既に何回か紹介していますので、私は私自身のボランテイア活動 を中心に、報告いたします。


サルタ州の州都サルタ市の全景

2.アルゼンチンについて

アルゼンチンは、亜熱帯から南極圏をカバーする広大な国土(日本の粗7,5倍)に約4200万人が居住する南米の大国で、国民の大半は イタリア、スペイン系を中心とした欧州系移民で、残りは極少数の先住民インデイオ(主にグアラニー族)、その他地域からの移民で構成されて います。(内日系人は6,5万人と推定)公用語はスペイン語で、業務、生活両面でスペイン語が必須となっています。


イグアスの滝

南部の南極に近く、氷河があります。

日本に居た時には、アルゼンチンは遠い存在で、牛肉とタンゴ、サッカー以外、それ程明確なイメージを持っていませんでしたが、 首都ブエノスアイレスのアパートから配属先まで通勤で利用する、地下鉄の車両の一部が旧丸ノ内線の車両だったり、出張先で日系移民の方々と お会いしたりすると、日本と当国の繋がりを実感し、急速に親しみが湧いてきました。

また、ブエノスアイレス市内の整然と区画された町並み、 市内各所にみられる重厚な建物や美術館、歴史的建造物、美しい公園、多くのコーヒーショップはヨーロッパを想起させ、アルゼンチンのかっての 豊かさと栄光を感じさせます。


建物

ブエノスアイレス・レテイーロ駅の風景

それに加え、出張や個人旅行で訪れた各地の住民や自然からは、多様な文化と移民国家としてのアルゼンチンが実感 できます。

ブエノスアイレスには、地下鉄が4路線あり、バスや近郊への鉄道路線も整備されていて、移動に関しては全く不便を感じませんでしたが、 地方への移動になると、寡ってアルゼンチン全土をカバーしていた鉄道網のメンテが不十分で、機能しておらず、長距離バスか飛行機を利用すること になり、快適、効率的とは言えませんでした。

同業組合が強く、輸入規制もあって、競争が少ないこともあり、公共料金を除き、物価が高く、 インフレ下での生活という難しい面もありますが、現地の人々はゆったりと生活を楽しんでいるように見えました。


タンゴの発祥の地

3.私の配属先とボランテイア活動

私が配属された工業省管掌の国立工業技術院(Instituto Nacional de Tecnologia Industrial,略称INTI)は、各種産業分野の試験、分析、 度量衡検査の他、環境対策技術支援や品質改善、生産性向上に関する中小企業支援を行う政府機関で、職員は全体で2000名以上、ブエノスアイ レス本部には、各部門の職員1000名近くが勤務していました。

活動拠点とした経営管理技術開発普及部は部長以下職員14名で、 本部周辺地域の中小企業に対する支援を行うとともに、「経営管理ネットワーク」のコーデイネーションを通じ、各地方支部職員を対象とした 生産管理・経営管理技術の普及、移転、及び彼らと連携した各地方の中小企業に対する支援も行っていました。

赴任後要請に従い、ブエノスアイレス本部周辺の中小企業の経営改善、体質強化を支援する活動を行ってきましたが、活動が軌道に乗り始めた 2016年8月頃、INTIカウンターパートより、歴史の浅い地方支部担当者のレベルアップと、地方企業にも経営管理技術の紹介、普及を図って 欲しいとの要請が有り、活動範囲をアルゼンチン全土に拡大しました。

この結果、2年間の活動期間中、アルゼンチン全23州のうち、 15州の地方支部を訪問、担当職員への研修と、累計100社以上の地方企業を訪問、支援を行いました。

これに加え、州政府関係者との打ち合わせ、 JICA/INTI共催の「第3国研修」での講師の他、産業団体、大学でも60回以上のセミナーを実施しました。

INTIでは多くの職員が日本でJICAの研修を 受講、経営管理に関する基礎知識は十分持っていますが、経営管理の体系的知識、実践的応用力は不足しているように見受けられました。

その為、私は経営管理理論の体系と、現役中実践したそれらの活用例、「カイゼン」の概念と、活動推進手法を紹介することに重点を置き、活動、 支援を行いました。

4.おわりに

アルゼンチンは大きな可能性を持っていますが、社会面、経済面で多くの問題を抱えています。特に、産業面では、アルゼンチンの中小企業が 諸外国の企業と競争し、海外からの投資企業をサポートしていくためには、生産性を向上し、競争力を強化していくことが必須となると思います。

私の活動がこれらの課題、問題点を克服するうえで多少なりともお役にたち、アルゼンチンがより暮らしやすく、魅力的な国になることを願ってお ります。更に帰国後は日亜親善のため私なりに出来ることを続けていければと思っております。

以上