アルゼンチン              阿部 清司

アルゼンチンには南米大陸の自然のすべてがある。乾燥した北の平原から南の氷の大地まで、南北3700kmに及ぶ国土はそれぞれの地点で感動的な光景を示す。西にはアンデス山脈が四季折々の彩りをそえ、東に向かっては肥沃なパンパPampaの大草原が広がる。 アルゼンチン(ARGENTINA)という国名はラテン語のアルヘントゥム(銀Argentum)に由来する。16世紀に大量の銀がこの土地にあると考えられていた。アルゼンチンはブラジルに次ぐ南米の大国であり、日本人にとっても注目に値する。アルゼンチンと日本との関係は少しずつ増えている。

のどかな豊かな大草原が延々と続くアルゼンチン。パンパPampaではゆうゆうと牛たちが草を食べている。その写真は http://kiyoshiabe.world.coocan.jp/LaPlata/1Pampa.htm で見れます。

アルゼンチンの牛の数は人間の数(4000万人)の2倍以上と言われ、食文化は肉文化であり、その中心が「アサード」(牛の丸焼き)となる。広大なパンパで家畜の世話をする「カウボーイ」のことを「ガウチョgaucho」と言う。野性の牛を捕らえてその肉をじっくりと炭火で丸焼きにしてガウチョが食べたのがアサードの始まりであり、それは今でも野性味たっぷりの現地の男の料理(バーベキュウB&Q)である。その様子を見るには下記をクリックしてください。 http://kiyoshiabe.world.coocan.jp/BsAs/No8Eating.htm

資源の乏しい国(日本)から資源の豊かな未知の国(アルゼンチン)に到着し生活すると、誰でも、強烈な印象を持つ。そこでの生活や活動や失敗から学んだことを客観的に公開することはハイテク時代のSV(Senior Volunteer of JICA)にふさわしい「成果社会還元」の一つではないでしょうか。それらは私のホームページ「アルゼンチンの印象」にまとめてありますので、ご関心のある方は、 http://kiyoshiabe.world.coocan.jp/ をクリックしてください。そこから特に興味ある項目にリンクできます。

ラプラタ市

アルゼンチン(Argentina)という国の首都(capital)は ブエノス・アイレス市(Buenos Aires)であるが、それがあるブエノス・アイレス州(Provincia de Buenos Aires)の州都 (capital)はラプラタ市 (La Plata)である。プラタとはスペイン語で銀を意味する。ブエノス・アイレス市の写真などは http://kiyoshiabe.world.coocan.jp/FirstPageBsAs.htm に載せてあり、ラプラタ市 (La Plata)の特徴的な写真を見るには http://kiyoshiabe.world.coocan.jp/FirstPageLaPlata.htm にリンクして下さい。

ラプラタは緑の町。緑にあふれた街路がいたる所にあり、訪問者を歓迎する。街の人々は近づき易く、道を聞くと誰でも親切に教えてくれる。町では計画的に植えられた街路樹が見事であり、ここに来るとほっと一息する。春の新緑のみならず、夏の濃い緑の頃も素晴らしい。うだるような暑さの時でも菩提樹(Tiro)の下にしばらくいると気分が一新する。涼しく気持ちが良いからである。そういう菩提樹通りがラプラタには多い。それらの光景を見るには http://kiyoshiabe.world.coocan.jp/VER.htm をクリックして下さい。

ラプラタ市の特長は整然とした碁盤目状の道路。直線と対角線の道が左右対称に広がる。まさに都市計画の見本。直角に交差する二つの道路の番号さえ分かれば誰でも簡単に目的地(角)に行ける。より詳しくは http://kiyoshiabe.world.coocan.jp/LaPlata/2Map.htm で説明している。

南米大陸は化石の宝庫でもあり、アルゼンチンでも未開の北部に行くと化石がまだその辺にごろごろしている。ラプラタ市では「自然博物館」(Museo de Ciencias Naturales)が世界的に有名。人口64万人のラプラタ市街は一日で回れるが、自然博物館をじっくり見るには一日では足りない。一見の価値を持つ。其の様子は http://kiyoshiabe.world.coocan.jp/LaPlata/5Museum.htmをクリックしてほしい。

シニア海外ボランティア(Senior Volunteer)としての活動

ラプラタ大学社会人向け大学院クラス

アルゼンチンでは国立ラプラタ大学は三指に入る有名な大学である。私はラプラタ大学国際研究所日本研究センターに配属され、国立ラプラタ大学法学部国際関係論大学院で社会人向け大学院クラスを担当した。任務は日本政治経済研究であるが、アルゼンチン経済との比較を含む。私の専門は国際経済論である。


(パソコンを使った授業風景。Mi posgrado Clase Abe en la Universidad Nacional de La Plata)

学部クラスと違う大学院クラス

学部授業とちがい大学院授業は高度である。大学院クラスであるので、質問は専門的となる。任務はジャイカ専門家にふさわしい内容であるとも思われる。大学院で院生に要求される学力レベルに上限はない。できる院生は飛びぬけてできる一方、できない院生はまったくできない。こういう玉石混合は米国でも日本でも見られることである。飛びぬけて優秀な院生には日本留学を強く勧めている。「実現のために助けになりたい」と述べたら、本人は大いに喜んでいた。そうなることをぜひ期待したいし、そういう援助もSVの任務の一つである。

社会人大学院と普通の大学院

院生は皆昼間は働いている。日本の大学院生のように、昼間から勉学にいそしむ環境は当地にはない。授業は夜7時から9時半ないし10時まで続く。疲れていても注意が散漫になることはない。彼らの多くは弁護士(abogado)である。そのうちの一人は議員(diputado、ブエノスアイレス州下院議員)であり、彼の見識や経験は広く深く、質問やコメントはどれも的をついていて鋭い。彼から教えられことが多かった。彼のコメントのなかにはアルゼンチンの良い点の指摘も沢山含まれており、大いに参考になる。


(院生たちは皆熱心である。有料のコースであり、居眠りする者はいない。受講生は約20名。
Los 20 posgraduados estan todos muy celosos.
Todos trabajan de dia, pero no hay ninguna persona que da cabezadas. )

意思の疎通

早口でなされる院生の質問のなかに不明なカステジャノ(南米スペイン語)の語句が出てきて私がこまっていると、すぐ周りの院生や助手が教えてくれる。そうしてなんとか質問の意図が伝わると、私も正確に回答できる。互いに納得し、和やかな雰囲気のなかで、意思の疎通が進む。「教えることは教えられることである」と拙著に書いたが、このことはアルゼンチンでも真実である。

教材

当地の院生の日本政治経済に対する知識はゼロである。そこで最初に日本の文化、歴史、社会、伝統などを紹介することにしている。問題は用いる言語である。英語はまったくできないという院生が多いので、すべてスペイン語で教えなければならない。日本政治経済に関するスペイン語教材を探したが、当地では見つからなかった。結局、JICAの日本紹介のDVD(スペイン語)を使うことにした。それには最近の統計データものっていて便利である。これに千葉大学で作成してきた教材(留学生向けの英語教材)をスペイン語に訳して追加している。

語学

海外の奉仕活動で最も重要なことは現地語のマスターである。私の場合、スペイン語の習得が絶対に必要であった。現地のスペイン語教師について猛勉強する日々が続いた。その目的は現地の学生や人々との相互理解を本当の意味で広め深めることにある。この努力は今も続いている。

クラスで議論する内容

日本の工場のなかの生産性向上運動(QC)などを紹介しても大学院の社会人は興味を示さない。これでもかこれでもかと日本の最先端の工場の美点を見せ付けられ、ため息をつく年配の会社員もいる。アルゼンチンでは脱工業化 (desindustrializacion)が進行中である。日本との比較には細心の配慮と慎重さが常に求められる。

彼らの関心をひく大きなテーマは何か。アルゼンチンが一次産品の輸出に活路を見出すことの大切さは昔も今も変わっていない。ある優秀な会社員院生は、「どうしたらアルゼンチンはもっと儲けることができるか」と質問してきた。付加価値を付けることが大切であると即答し、詳しく論じるには一冊の本が必要であるとも付け加えた。付加価値とはなにか、国際競争力とはなにか、アルゼンチンでどうしたら付加価値を付けられるか、どの産業から手をつけたらよいか、実施にあたってコンセンサスを得られるのか、提案はどの程度実行されるのか、政策に一貫性は保てるのか、政府と民間の永続的な協力はどうか、長期的な横の連携はどうか、などなど問題は山積している。実社会の諸問題や厳しい現実を知るには http://kiyoshiabe.world.coocan.jp/REA.htm をクリックして下さい。

さらに関心のある方は 拙稿、「アルゼンチン社会の悪循環・・・ビベサ・クリオージャと国の不統一」、『千葉大学経済研究』、第25巻第1号と第2号、2010年(http://kiyoshiabe.world.coocan.jp/Viveza/VivezaCriolla.doc) を参照されたい。

JICAのDVDの内容をそのままを伝えても効果的でないことがあると分かるまで時間がかかった。それが分かってからはクラス・ディカッションがより活発になっている。日本には長所だけでなく短所もあることを知って安心するのか、日本経済の弱点の羅列は多くの関心を呼ぶ。少子高齢化やそれに伴う日本経済の活力の低下、円高などに毎回興味が集まる。そのようにして共通の話題が増え、相互理解が増している。時には笑い声がわきあがることもある。

アルゼンチンで作られる多くの製品は国内で消費されている。そこで輸出依存度を院生と共に調べたら、輸出のGDPに対する比率は10.8%であった(2002年)。日本のそれも調べたら、同じ10.8%であった。その院生と私は互いに顔を見ながら思わず微笑んだ。一致の嬉しい一時である。こういう喜びが職業人としての生きがいとなる。

授業の一部としてブエノスアイレスの特に優秀な企業二つの見学も行なった。ご関心のある方は http://kiyoshiabe.world.coocan.jp/ISSUEArt.htm
さらに、 http://kiyoshiabe.world.coocan.jp/DIMA.htm をクリックしてみてください。


質疑応答の様子。毎回、鋭い質問が続出。私が右手に持つのはポインター(光っている)。手前のパソコンとプロジェクターは授業や会議などで多用。Preguntas y contestaciones. Cada ves hay muchas preguntas muy pertinentes. Lo que tengo en mi mano derecho es un punero que puede brillar. Se usa mucho el computador y el proyector.)

質問の仕方の工夫

回を重ねるにつれ、院生にどう質問たらより効果的であるか、少しずつ分かってきた。答えが自明な質問、日本独特の習慣、当地に全く無関係な事柄、などは避けたほうが良い、ということ分かってきた。たとえば所得平等の進んだ日本を紹介したあとに、アルゼンチンはどうか、と訊いたことがあるが、「平等ではない」という即答のすぐあとに「両国の違いはあまりも大きい」と指摘されてしまった。「日本のような生産性向上活動はアルゼンチンでも可能か」と訊いても、彼らはとまどうだけである。少しでも共通点のある項目やアルゼンチンの長所や日本の短所に関する質問を捜す努力は今後も続く。

大学院生と同じ目線で考えた結果行き着いたのが、以下に示すように、日本とアルゼンチンの比較を多面的に詳しく行なうことである。

両国の自然と文化と社会の対比

(1) アルゼンチンにあって日本にないもの

1 ハカランダJacaranda
2 氷河 Glacier
3 アコンカグア Aconcagua
4 イグアスの滝 Iguazu Falls
5 タンゴ Tango
6 マテ茶 Mate
7 パンパ Pampa
8 周辺国が同じ言葉を話す Language is the same in neighboring countries
9 カルトネーロ Cartoneros
10 ピケテーロ  Piqueteros
11友好的であるBeing friendly

(2) 日本にあってアルゼンチンにないもの

1 自動販売機 Automatic vending machine
2 カーナビCar navigator GPS(Global Position System)
3 寿司Sushi
4 資源小国Poverty in resources
5 単一民族One-race country
6 一億中流All are middle-class
7 いじめ自殺Bullying and suicide
8 民主主義Democracy
9 官民協力Cooperation between the public and private sector
10 教育重視Constant emphasis on education、
11 時間厳守Punctuality

両国の各項目の詳しい比較と説明は http://kiyoshiabe.world.coocan.jp/Comparacion.htm にあります。リンクすれば両国の違いが理解できるでしょう。

院生と共通の話題を少しずつ増やせることは教育者として大きな喜びである。現地には優れた良心的な院生が沢山おり、彼らの将来が楽しみである。社会人院生の日本に対する理解が深まり、日本の長所を少しでも取り入れて社会のために貢献したいという機運が、皆の共通の理解の上に、社会的に高まるならば、アルゼンチンの将来は明るくなるであろう。それは日本にとっても嬉しいことである。学んだ知識を彼らが共有してアルゼンチンの明るい将来のために一緒に協力する時が来る、ことを私は切に願いたい。


(大学院コース終了後の集合写真。日本とは違い、若い院生にまじって年配の院生も多い、全員が実社会で仕事を持ち、問題意識も持つ。Sacamos juntos este foto para los asistentes al final del posgrado curso. Se ven participantes ancianos y jovenes. Todos tienen trabajo y piensen que hay muchos problemas que resolver. )

開かれた心、現地の人の目線で見ることの大切さ

シニア海外ボランティアの日常は異文化との接触の毎日である。そこで求められるのは相手のレベルに降りて理解しあう態度、本当の意味で開かれた心、である。愛情とは相手と全く同じ目線にたって考えることの出来る能力を指すのではないだろうか。より詳しくはhttp://kiyoshiabe.world.coocan.jp/OpenHeart.htm にリンクしてください。

日本的な感覚を100%捨てて、現地の価値観を本当にわかろうとする努力が底辺ににあるべきであろう。すくなくともそういう努力は絶対に不可欠である。現地語の習得は必須であるが、日常業務の陰でなされることが多い。そういう自己犠牲は目立たないが、後の報いは少なくない。

さらに、より詳しくは、『クロスロード』誌、2008年8月号、pp.34-35(「学生の目線で日本を見つめ直す」、国際協力機構(JICA)青年海外協力隊事務局発行 http://kiyoshiabe.world.coocan.jp/SVExpAbe.htm)を参照してください。なお、専門的な経済的情報と分析に関しては、拙稿、「アルゼンチン経済の破綻と活性化」、『世界経済評論』、2007年6月号、pp.37-45 http://kiyoshiabe.world.coocan.jp/ArgEco2007.htm を読んでいただきたい。

ここまで読んでいただき、どうもありがとうございました。

阿部清司(SV)2010年 9月

以上