思い出の写真

ポートビラ商工会議所 ビジネス研修の様子
首都ポートビラ市(旅客機から) 小学校の生徒たち
タンナ島 ヤスール火山 ペンテコスト島 ナンゴール祭

レポート: 「バヌアツという国」  白鳥貞夫

「バヌアツ共和国」ご存知ですか?南太平洋に浮かぶ83の島々に、21万人が住む小さな国です。世界的な観光名所や特別な産物がないので、知る人が少ないのは仕方ありません。06年7月、そのバヌアツが突然脚光を浴びました。英国のシンクタンクnef が「世界一幸福度指数の高い国」にバヌアツを選んだのです。

私はH16 年10月から2年間、シニアボランテイアとして、首都ポートビラの商工会議所に勤務しました。国の経済規模を表すGDP(国内総生産)は約600億円、日本のちょっとした企業1社分ですが、経済統計に表れるビジネスの殆どは外国人経営、原住民の大半は今も原始的な自給自足生活をしています。商工会議所の会員数は5200、その7割はタックスヘブン利用目的の外国人で、実際にバヌアツで商売をしている原住民の会員は、零細商店主、家内工業的な食品加工場、個人タクシー運転手等々、「企業」と呼べるものは数える程しかありません。私の任務は原住民のビジネス訓練プログラムの支援でしたが、誰に何を教えたら良いのか、試行錯誤のまま2年間の任期が過ぎました。

島々に小集落が点在するバヌアツでは、電気の普及や交通手段の整備が容易でなく、産業や物流振興の手掛かりが見えません。天然資源や熟練労働力がないこの国では、近隣のオーストラリアやニュージーランドから訪れる年間10万人の観光収入が頼りですが、その殆どは白人社会を循環するばかりで、原住民社会に落ちるお金はしれたものです。国連がバヌアツを最貧国に指定していますが、掘っ立て小屋に裸同然で暮らす人達を見る限りでは、全くそのとおりとしか映りません。そのバヌアツが、何故「世界一幸福な国」なのでしょうか。

「幸福度指数」レポートの原文は http://www.happyplanetindex.org でご覧いただけますが、簡単に言えば、国民が感じている「人生満足度」に「平均寿命」を掛け、それを「地球環境負荷度」で割ったものです。つまり幸福とは、エネルギー消費や廃棄物の少ない生活をして、ストレスなしに長生きすること、というわけです。この基準でバヌアツを見れば、確かにそのとおりです。豊かな自然に恵まれて食料の心配がないし、家族の絆や集落の共同体的な仕組みの下で、子育てや老後に悩むこともありません。乳幼児死亡率が改善し、自然食で適度な肉体労働をすれば、健康で長生きできるわけです。電気や車がなくても困ることはなく、お金でモノを買うこともないので、廃棄物も出ません。

統計データを詮索するまでもなく、バヌアツの子供たちの屈託のない笑顔と澄んだ瞳を見れば、彼等が温かい家庭と包容力ある地域社会の中で健全に育っていることは一目瞭然、この国の幸福度が世界一であることが納得できるでしょう。一方、世界一の経済発展を成し遂げた日本の幸福度は178カ国中の95位、とりわけ「人生満足度」の低さを見るにつけ、子供も大人も社会も病んでしまったとしか言い様がありません。日本人はバヌアツ人にはなれませんが、我々が幸福感を取り戻すために、今からでもバヌアツから学べるものがあるのではないか、というのが、バヌアツから帰国しての感想です。

(筆者がバヌアツ滞在中に見聞したことや写真をホームページ「バヌアツ通信」に掲載しました。
http://www7a.biglobe.ne.jp/~shirats でご覧いただけます。)

以上