自然とエネルギー資源の豊かな国アルゼンチン        武松 敏弌

平成20年9月から1年間、JICAのシニアボランティアとして、アルゼンチンで「再生可能エネルギー」の教育・普及のプロジェクトに携わり、21年9月に帰国しました。 1年間では何もたいしたことはできませんでしたが、日本とは、地球の正反対の裏側で経験したことの一端をご紹介させていただきます。

1. 派遣先と仕事の内容

私が派遣された先は、ブエノスアイレス市にある「企業経営・社会科学大学」(UCES)の「環境調査研究所」(IEIA)で、アルゼンチンの環境教育・活動の中心となっている機関です。IEIAは、写真1に示した大学の建物の一つの3階にあり、構成員は、所長である教授とその秘書と私の3人きりでした。写真2は、その二人と、たまたま環境優良企業の表彰式の後のパーティーに呼ばれていた家内と、4人一緒に撮ってもらった写真です。

アルゼンチンは、石油も天然ガスも自給しており、かつ、チリ、ブラジル、ウルグアイ、米国等に輸出もしている国ですが、両資源の埋蔵量が、あと10-12年で底をつくことがわかっており、次世代のエネルギーをどうすべきかということが問題になってきています。

そこで、UCESを中心とした環境グループは、アルゼンチンに豊富に存在する自然エネルギー、つまり再生可能エネルギーを採用すべきであると考え、この方向で世論を盛り上げることにしましたが、このような新エネルギーに対する国民の認識は浅く、これを理解させるための教育・啓発活動が必要ということになりました。しかし国内には、この分野の専門家が少ないので、JICAにボランティア派遣の要請があったわけです。

したがって私の仕事は、再生可能エネルギーについて、国民に教育することであったわけですが、私の任期が1年と短かったため、環境専攻の大学院生を含む大学関係者、地方自治体及び企業の環境関係者を対象としたセミナーでレクチャーをし、彼らが一般国民や中高生に対して教育をするということになりました。私は主として再生可能エネルギーの日本における開発と導入の経験について紹介しましたが、さらにアルゼンチンの再生可能エネルギーの選択肢を拡げるため、英国とカナダにおける現状と計画等についても紹介しました。写真3は、企業関係者が多く出席したセミナーの一例で、このときは日本大使館から公使も出席しておりました。


写真1.
研究所のある大学の建物の前で

写真2.
左から所長、秘書、家内とともに

写真3.
セミナー風景

2. アルゼンチンのエネルギー事情

アルゼンチンの全エネルギー消費の半分(51%)が天然ガス、次いで石油が33%、水力が12%、原子力が3%で、石炭は1%と非常にマイナーです。 電源別の発電量では、火力発電が約半分の49%ですが、燃料の大部分は天然ガスで、最近は石油や石炭は殆ど使われておりません。2番目が水力で、総発電量の40%を占めており、3番目が原子力です。

以上から、現在のアルゼンチンにおける最も主要なエネルギーは天然ガスであり、その殆どが発電に消費されております。次の石油は、大部分が輸送用エネルギーとして使われています。

水力と原子力は、もっぱら発電用ですが、アンデスからの豊富な水を用いた水力が注目されます。と云うのは、アルゼンチンは、まだ水力資源の20%しか利用していないと云われており、10年後、天然ガスが枯渇した後、発電の主力になるのは、水力ではないかとも云われているからです。

3. 大自然とエネルギー資源の宝庫パタゴニア

仕事の関係とプライベートの旅行で、2度訪れたアルゼンチン南部のパタゴニア地方は、ペリトモレノ氷河(写真4)や世界で最も南極に近い都市、ウシュアイア(写真5)、マゼラン海峡、ダーウインが動植物を調査したビーグル水道(写真6、7)、パタゴニア北西部のバリローチェを中心とした湖水地方(写真8)等で有名ですが、アルゼンチンの代表的な石油や天然ガスの生産地でもあります。しかしもう一つ、この地域、特に、サンタクルス州とチュブー州は、非常に風が強い、風力資源に恵まれた地域としても有名な所です。写真9のように、まっすぐに立っていられないような強い西風が一年中吹いています。


写真4.
ぺリト・モレノ氷河

写真5.
最南端の都市ウシュアイア
写真6.
ビーグル水道に棲息するオタリア

写真7.
ビーグル水道のペンギンの群れ

写真8.
バリローチエの湖水風景
写真9.
強風の吹くコモドロリバダヴィア

この2州の総面積は、日本の総面積の1.25倍で、人口は61万人(日本の約200分の1)。大部分はこの写真10のような、人の住まない砂(土)漠地帯です。このような地域の中、両州の面積の半分に相当する地域に、できるだけ多くの風車を立てたとしますと、現在のアルゼンチンの全電力生産量の100倍又は現在の日本の全電力生産量の10倍の電力を生産することができるそうです(日本の水素エネルギー協会の試算による)。

またもし、風力発電の電力を使って、水を電気分解すれば、最もクリーンな燃料と云われる水素が発生し、究極のエコカーである水素燃料電池自動車を走らせることができます。写真11に風力発電により水素を作り、これの用途を研究する、サンタクルス州の水素実験施設の建物と、写真12に、そこにある実験用の水電解水素製造装置を示します。


写真10.
パタゴニアの砂漠(土漠)

写真11.
サンタクルス州の風力水素実験施設

写真12.
実験用水電気分解装置

10年先、天然ガスや石油が枯渇しても、アルゼンチンは、自前の風力エネルギーを有効に利用すれば、半永久的に必要なクリーンエネルギーを自給することができるだけでなく、外国にガスパイプラインを使って、あるいは、液体水素の形で、自動車燃料や家庭用ガス燃料を輸出することもでき、必要な外貨を獲得することができると同時に世界の温暖化防止に貢献することができるのです。

以上